本研究の目的は、人々が「自律的コミュニティ」(自らの意志によって、自ら立てた規範にしたがってつながり支え合うコミュニティ)を形成するための社会的条件を、個人事業規模のソーシャルビジネスに着目することにより、明らかにすることである。特に、以下の2点に着目する。
①何らかの福祉的課題に直面した経験をもつ人が、自身の困惑や葛藤の経験を軸として起業した事例を取り上げ、その営みに見出せる「当事者性」と「自律性」がコミュニティの性質にどう影響しているかを考察する。
②個人事業規模のソーシャルビジネスにより創出されるコミュニティが、「家族」的な親密圏としての性質と、多様な人々に開かれた公共圏としての性質を併せ持つ点に着目し、その特性が人々の「自律性」とどう関わっているかを考察する。
①研究会の立ち上げと定期的開催
「自律的コミュニティとソーシャルビジネス研究会」を立ち上げ、研究を進める上で必要な情報収集を行うと同時にネットワークを構築する。
②先行研究整理・情報収集と理論的枠組みの構築
研究会での活動をベースとし、国内外のコミュニティ形成に関わるソーシャルビジネスに関する先行研究整理と情報収集を行う。これまでの研究で得た知見と情報および先行研究の整理・分析をふまえて、家族・コミュニティ問題の検討と研究の理論的基礎付け、および国際比較による日本的特性の抽出を行う。具体的には、近年の欧州での共生のハウジングや「ホーム」概念の再評価の動向の検討、各国における自律性を重視した共生のシステムに関する事例収集と整理等を行い、各国の家族・コミュニティ規範の歴史的経緯を見据えながら比較検討する。以上の作業と共同討議を通じて、日本の事例研究を行う上での理論的枠組みを構築する。
③日本におけるソーシャルビジネスの実践事例研究
上記で検討した理論的枠組みに沿って、子細な事例調査と分析を行う。その分析を通じて、日本における自律的コミュニティ形成に向けてのソーシャルビジネスの可能性と課題を抽出する。なお、本研究は、同一の事例に対して、メンバーがそれぞれ専門とする研究視角から分析・考察し、その成果を共有し共同討議を重ねることによって進めていく。