ブックタイトルnarapu 09

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概要

narapu 09

学術研究報告について本学の学術研究制度は、本学教員が学外の研究者(学術研究員)と共同で行う研究を支援する制度です。これまでの研究成果の一部について紹介します。R3年度報告野生動物の観光資源化の成立要因に関する研究本学教員(研究代表者):水谷知生教授学術研究員:平侑子(せとうち観光専門職短期大学助教)本研究では、野生生物との近接関係(餌やり)を観光資源化している奈良のシカをとりあげ、奈良への来訪者が増えた17世紀以降近代まで、餌やりの確立とその態様の変化、シカ管理と餌やりの関係など餌やりを介したシカと来訪者の関係の経過を、文献資料調査を中心に明らかにしていきました。関係資料としてこれまで、近世の案内書(36点)、近世の紀行文(10点)、近世の道中日記(203点)、明治期案内書(40点)、明治期外国人旅行記(52点)を収集し分析しました。5種類の資料の検討から、1 18世紀半ば頃には、来訪者にシカの餌を売る者があらわれ、来訪者は餌やりを行っていた=人によく馴れている状況が成立、2明治期にシカとの関係が大きく変化(農業被害防止のため鹿園を設置し囲い込み)したが、餌やり(観光資源としてのシカ)は江戸期の関係が継続、3明治期の餌やりの実態(餌の種類が多様、販売場所は春日参道両側、販売者は女性、餌やりをした場所は春日大社境内とその附近の公園地)、が明らかとなってきました。本研究は、科学研究費助成事業基盤研究で継続して実施しています。R3年度報告日米における「他者」に対する視線ーナンシー梅木にみる日本のアメリカ性の表象とアメリカの日本人表象を例に本学教員(研究代表者):岡井崇之教授学術研究員:俣野裕美(同志社大学非常勤講師、本学非常勤講師)本研究では、まず1950~60年代にかけて日米両国で活躍した、歌手で女優のナンシー・梅木に焦点を当てることで、当時の日本社会が彼女にどのような視線を向けていたかについて考察しました。加えて、アメリカのメディアにおける日本人表象という大きなテーマにまで広げて研究しています。あからさまな人種的偏見やステレオタイプ描写が減少傾向にある現代のアメリカ映画において、日本人や日本文化がいかに「他者」として描かれてきたかに迫るものです。いずれの研究も「他者」と位置づけられた人や文化を社会がどのようにまなざすのかという点に主眼を置いています。後者の研究では、アメリカの外交政策の重要課題の変化が日本人の描かれ方の変化に直接的な影響をもたらした可能性があるとしています。これらの知見は、岡井が取り組んできた「メディア言説は社会を変えるのか」という大きなテーマのなかで重要な知見となるものであり、その領域の研究の進展に資するものと言えます。R3年度報告移行期正義と芸術活動ーインドネシアにおける独立系映画制作に焦点をあてて本学教員(研究代表者):亀山恵理子准教授学術研究員:鈴木隆史(桃山学院大学兼任講師)本研究は、国家権力による過去の負の遺産に向き合い清算する移行期正義において、独立系の映画や映像制作が果たしうる役割について考察するものです。具体的には、インドネシア占領下(1975年~1999年)の東ティモール女性の紛争経験を描いた映画制作と、日本占領下(1942年~1945年)のインドネシアで慰安婦とされた女性の経験に耳を傾け映像で記録する活動をとりあげ、それらの活動過程がとくに被害者の立場にある人々にどのような影響をもたらしたのかを明らかにしようとしました。これまでに得られた知見(現地調査を含む)から言えるのは、第一にそれらの活動過程は被害者の経験を社会において可視化すること、第二に被害者の立場にある人の気持ちの変化だけでなく、歴史的には加害の立場におかれた制作者が自らの痛みに向き合う過程での変化、地域社会の人々が被害者へ向けるまなざしの変化など関係する人々の間に複数の変化が起こりうることです。8